ヒーター

テクヒーター®はこうして生まれた【2】

PTCセラミックスとの出会い

セラミックスの研究方針が定まらない焦りのなか、紹介されたコンサルティングファームとの打ち合わせに縋る想いで臨んだ研究開発室のメンバーたち。実はこれがテクヒーター誕生の大きなきっかけとなりました。

その打ち合わせには、セラミックスの領域で非常に著名なK氏が参加していました。K氏は国連におけるセラミックスの研究者であるだけでなく、国内外の有名大学で物理工学の教鞭を執り、研究者の育成にも力を注いでいる人物です。その当時、既に20社もの日本企業に対しコンサルティングの実績もありました。

そのK氏から「PTCセラミックスをテーマにするのはどうか」と助言を受けたのです。

その後、すぐに『PTCセラミックス』に望みを託した研究がスタートしました。

研究方針は決まったが大きな課題が…

ようやく研究テーマが決まり、PTCセラミックスを利用した電子部品“消磁素子”の開発をスタートさせました。

当時は、年間数億台ものブラウン管カラーテレビが世に出回っている時代でした。そこで、カラーテレビの部品としてPTCセラミックスの使用を検討したところ、消磁素子として使えることがわかりました。早速試作をしてみると消磁素子としての物性を実現することができ、量産試作もなかなかよい出来栄えでした。

「これはいける!」とメンバー全員が確信した瞬間でした。
そこで、社内の承認を得るために採算を算出したところ、思わぬ現実を突きつけられたのです。

積水化成品はそれまで、消磁素子のような電子部品を開発したことがなく、量産には、新たに大きな設備投資が必要でした。月に100万個の売上が見込めなくてはビジネスとして成り立たず、生産・販売ともに経験のない積水化成品には到底不可能な数字だとわかりました。

3年という年月をかけてようやく決まった研究テーマを諦めなくてはならない。

やりきれない気持ちのなか、研究員たちは新たなテーマを見つけるため、連日議論を続けました。
そして、数ヵ月のある日、メンバーたちは気付きます。

「部品単体がダメなら、それに付加価値を付けた製品開発をすればよいのではないか」

そこから一気に製品開発がスタートするのです。

試行錯誤の結果、初の製品化

まず初めに研究員に課されたのは、ひとり三つずつ製品アイデアを考えてくることでした。
条件は、『PTCセラミックスの発熱特性を利用した用途』であることです。

「PTCセラミックスを床暖房のように使用することができないか」
「お風呂の天井が結露しないようにPTCセラミックスを活かせないか」

一週間後にはさまざまな意見が提出されました。
その中で画期的なアイディアであったのが「風呂場の鏡が曇らないようにする防曇ヒーター」でした。

「これは市場価値があるかもしれない」
メンバーの誰もが期待に胸を躍らせました。

開発にあたり一番の課題は、湿度の高い風呂場で電子部品であるPTCセラミックスを使用することでした。
安全性を担保するには、防水加工を施す必要がありました。防水加工といえば一般的に樹脂素材が使用されますが、PTCセラミックスの発熱による樹脂の溶化が懸念されたのです。しかし、実際に試作を進めてみると、これは杞憂に終わりました。加熱温度を、樹脂の溶化に影響のない範囲内に設定しても、期待される防曇性が実現できたからです。

試作と検証を繰り返し、樹脂加工したPTCセラミックスを鏡裏のアルミ板に複数個設置することで、ようやく防曇ヒーターが完成しました。

PTCセラミックスを使用した製品第1号です。

次編に続く

※PTCとは、Positive Temperature Coefficientの略称で、日本語で「正温度係数」と訳されます。これは、温度が上昇するに伴い、ヒーターの電気抵抗が増大する特性です。つまり、温度が上がると電気が流れにくくなり、温度が下がると電気が流れやすくなる特性です。

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