ヒーター

テクヒーター®はこうして生まれた【1】

ヒーティングケーブルの常識を覆す

積水化成品が、セラミックスを使った新製品の市場投入を目指して研究室を発足した1986年(昭和61年)から、早くも30年以上の月日が経ちました。その間にこれまでの常識を覆して生まれた、自己出力制御型ヒーティングケーブル「テクヒーター」は、ベストセラー製品としてさまざまな企業の凍結、雪害対策の問題解決に役立っています。

「テクヒーター」には大きく2つの特長があります。
1つ目は、本体に独自のPTCセラミックスを内蔵しており、一定の温度に保つよう必要な部分だけが発熱するのでムダな電力を省く点です。設置環境の変化に合わせて、ヒーター自体が出力調節を行うため、豪雪地帯の駅舎や高速道路の料金所屋根の落雪対策、トンネル入口付近の引き込み雪の除雪に採用され、その効果をいかんなく発揮しています。

2つ目は、形状の自由度が高い点です。一般にはトレースヒーターと言われるテープ状ヒーターに分類されますが、その多くはカーボン製です。「テクヒーター」はPTCセラミックスの素子以外は柔らかい素材を使用しているので、高い柔軟性を実現しました。そのため、融雪用途だけでなく、食品プラント内のパイプの温度管理にも採用されるなど、さまざまな業種業態、屋内外の現場を支える存在となっています。

本コラムでは、この「テクヒーター」が誕生するまでの紆余曲折を連載形式でご紹介します。
第一回は積水化成品が「テクヒーター」の核であるPTCセラミックスに出会うまでをご紹介します。

化学分野で起こった2つのブーム

1980年代後半、日本がバブル経済で盛り上がっているなか、化学分野でも2つのブームが盛り上がりを見せていました。これが“セラミックスブーム”“バイオブーム”です。特にセラミックスの研究は、「世の中の構造材料が金属からセラミックスへ代わるのではないか?」と期待をした鉄鋼、樹脂、繊維などさまざまな業種の会社がこぞって研究開発に人材・資金を投入し注力を進めていました。セラミックスエンジンなど消えた技術もありますが、超伝導やセラミックス半導体、人工骨といったさまざまな分野で活躍するセラミックス製品はこの功績といえます。現在に繋がる産業発展を大きく牽引しました。

もちろん積水化成品もセラミックスブームに乗じた企業の1社でした。
積水化成品の研究部門では、他社に先手を取るためにより良い人材の確保に動き出していました。

研究室外観

研究室内

「テクヒーター」を生み出す開発者との出会い

他社に負けない優秀な人材確保のために積水化成品がとった行動は、自社の研究者を大学の研究室に送り込み直接スカウトすることでした。その研究者が目を付けた学生がY氏でした。

当時、大学生のY氏は大学でセラミックスの研究をしており、セラミックスの卒業論文で大忙しの時期でした。そんな大忙しの時期に大学の先輩から「積水化成品でセラミックスの研究ができるからうちに来ないか」とだけ言われ入社が決まりました(笑)と当時の様子をY氏は振り返ります。実はそんなY氏が後に「テクヒーター」を開発してしまうのです!

なかなか固まらない方針

1985年Y氏も積水化成品の研究開発室に加わり、セラミックスの研究が本格始動しました。当初、積水化成品では“圧電体”“ガラス微粒子”の2つのテーマについて研究を進めていました。圧電体はアクチュエーターの研究を、ガラス微粒子は液晶パネル用のスペーサー用途の研究を進め、軌道に乗りかけたも束の間、どちらの分野も事業採算面から断念せざるを得なくなってしまいました。Y氏が加入してから3年後の1988年、積水化成品のセラミックス研究テーマは振り出しに戻ってしまったのです。

研究方針を一から決めなおすことになった、研究開発メンバーは新たに何をテーマにしようかと悩みに悩みましたが、なかなか良い案が浮かびません。

「コンサルティングファームを使ってみてはどうだ?」

開発担当役員のひとことで話しを聞く機会が設けられました。このひとことが「テクヒーター」の核となるPTCセラミックスとの出会いとなるのです。

次編に続く

※PTCとは、Positive Temperature Coefficientの略称で、日本語で「正温度係数」と訳されます。これは、温度が上昇するに伴い、ヒーターの電気抵抗が増大する特性です。つまり、温度が上がると電気が流れにくくなり、温度が下がると電気が流れやすくなる特性です。

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